腎がん

泌尿器科疾患について

疾患名をクリックすると詳しい内容がご確認いただけます。

腎がん

1.腎がんとは

腎臓は背部に左右1つずつあり、長さ15cm、重さ150-200gのそら豆状の臓器です。主な働きは尿をつくり体内の不要物質を排泄することですが、その他に血圧や造血、骨の状態を調節する働きも担っています。腎がんは尿生成を行なう腎実質にできる腺がんです。腎腫瘍は約90%が腎悪性腫瘍,すなわち腎(細胞)がんです。また腎盂粘膜より発生する腎盂腫瘍とは別の病気です。ここではおもに腎(細胞)がんについて説明します。腎悪性腫瘍(腎がん)の発生頻度は、人口10万人あたり2.5人程度です。年齢では40歳代から70歳代に多く発症しますが、近年では30歳以下の若年者の発症もしばしば見られます。男女比は2~3:1で男性に多い傾向があります。
泌尿器科系悪性腫瘍の中では、前立腺がん、膀胱がんに次いで多い腫瘍です。腎がんの発生する原因は他のがんと同様明らかなことはわかっていませんが,喫煙,性 ホルモンなどが危険因子として知られています。また,透析中に腎がんが高率に発生することも報告されています。

2.症状

現在は検診や他の疾患の治療中に偶然発見される場合が全体の40%前後と多くなっています。つまり、全くの無症状であることが多いのです。血尿,腹部腫瘤,疼痛が古典的な3主徴されていますが,最近ではこれらがすべてそろうことはあまりありません。ただし、約10%に転移による症状で見つかっており,発熱,全身倦怠感,体重減少などで発見されることもあります。

3.診断

主に種々の画像診断検査により診断します。一般には腎がんに特異的な腫瘍マーカーはありませんので、血液検査結果だけで診断されることはありません。検診での腹部超音波検査や他疾患精査中の腹部CTスキャン検査で発見されることが多いようです。

4.治療および手術

腎がんは手術が最も有効な治療法であるため、現在のところ手術が主な治療となります。治療方法は手術により患側腎を摘出することが原則です。他臓器に遠隔転移があるような場合でも手術の適応になります。放射線治療や抗がん剤治療(がん化学療法)は一般的に奏功率は低いと報告されています。

1) 手術療法

4.治療および手術

腎がんの手術法は、腎臓そのものを摘出する根治的腎摘除術と、がんの部分のみを摘除する腎部分切除術(部分的腎摘除術)に分けられます。また、当院では根治的腎摘除術と腎部分切除術それぞれに対してロボット支援下腹腔鏡手術がメインですが、開腹手術(経腹式、経腰式など)や腹腔鏡下手術も行なわれております(図1,2,3)。

4.治療および手術
4.治療および手術
≪根治的腎摘除術≫

がんのある腎臓を周囲の脂肪組織とを一塊して摘出する根治手術です。麻酔は全身麻酔で行います。手術時間は麻酔時間も含め3-4時間ですが、出血や癒着、あるいは大きな腎がんなどのためさらに時間を要することもあります

≪腎部分切除術≫

腎がんと周囲の腎実質を部分的に腎臓から切除する方法で、次の4つが適応とされます。

  • ①両側の腎がん
  • ②1つしかない腎に発生した場合(他方の腎臓がない場合)
  • ③がんができていない側の腎機能が悪い場合
  • ④小さいがんで部分切除可能な位置にある場合

特に近年、健康診断や人間ドックの発達により小さいがんが早期に発見される場合が多くなっており、腎部分切除術の適応が増加しています。この手術は可能なかぎり腎機能を温存する目的で施行されますが、手術中、手術後に腎臓の切開部分からの出血や腎臓からの尿もれの危険性があること、部分切除後の腎臓にがんが再発する可能性があるという問題点があります。しかし直径4cm以下の単発性(1個)のがんで以下の条件を満たしている場合、部分切除の治療成績は根治的腎摘除術とほぼ同等です。また、術前に発見できなかった他のがんが、術中超音波検査で新たに認められた場合は全摘術に切り替える場合もあります。麻酔法、手術時間は根治的腎摘除術と同様です。

【反対腎(健常腎)が正常な患者さんの腎部分切除術の条件】

1.無症状で発見されたがん
2.血尿を認めない
3.径(大きさ)が4cm以下で単発(1個)
4.切除可能な位置にあること
(特に腹腔鏡下手術の場合は、腫瘍は外方へ突出し、腎盂から離れていること)
以上のように、実際には切除する範囲と腎臓までの到達の仕方によって様々な手術方法が考えられます。それぞれの方法に利点、欠点があるので、各担当医から十分な説明を受け、納得されてから手術法を選択することが大切です。

  根治的腎摘除術 腎部分切除術
がんの大きさ 問わず 7cm 以下
がんの位置 問わず 外側(超音波で確認できる腫瘍)が望ましいが問わず
麻酔法 全身麻酔 全身麻酔
手術時間 2-3時間 2-3時間
有利な点 合併症が少ない 手術側の腎機能温存
不利な点 腎臓が1つとなる為、将来、腎機能障害となる可能性 術中、術後の出血、尿漏れの可能性

2) その他の治療法

手術以外の治療法としては、次のものがあります。

薬物療法
・分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞や血管内皮細胞の増殖に関わる細胞内のシグナル伝達を阻害することによってがんの増殖や進展を抑える薬剤です。 現在本邦ではチロシンキナーゼ阻害剤としてスニチニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、レンバチニブが、エムトール阻害剤としてテムシロリムスとエベロリムスが治療薬として使用されています。これらの薬剤による治療により腎がん患者さんの生存期間の延長が確認され、現在では1次治療として免疫治療薬とのコンビネーションや2次治療以降で単独で使用される薬剤となっております。 しかし高血圧、疲労、手足の皮膚症状、甲状腺機能障害など、分子標的薬に特徴的な副作用も見られるため、十分に注意して治療を行っています。

・免疫治療薬

現在本邦では免疫治療薬としてニボルマブ、ペンブロリズマブ、アベルマブ、イピリムマブが治療薬として使用されています。これらの薬剤は分子標的薬との併用や免疫治療2剤の併用が転移性腎がんの1次治療の中心となっています。また術後補助療法や2次治療以降に免疫療法単独治療が施行されることもあります。しかし間質性肺疾患、重症筋無力症、心筋炎、筋炎、横紋筋融解症 、大腸炎、重度の下痢、1型糖尿病、脳炎・下垂体炎など免疫関連合併症(irAE)と呼ばれる、免疫治療薬に特徴的な重症化しうる副作用も見られるため、十分に注意して治療を行っています。

放射線療法

腎がんは放射線感受性が低く、腎原発巣への放射線照射は効果が乏しいとされています。しかし 転移巣に対しては放射線照射を行って痛みの軽減を図ることがあります。

術後入院日数 開腹 ロボット手術 腹腔鏡下手術
根治的腎摘除術 7-10日 5-7日 5-7日
腎部分切除術 7-10日 5-7日 5~7日

手術法、病状、術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
通常、7日間程度の入院治療を要します。入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。全体的に腹腔下手術は低侵襲であり、早期離床、早期退院により、早期社会回復できる傾向があります。手術の病理結果によっては術後補助療法が推奨されます。

5.予後

腎がんの組織型によっても急速に進行するタイプと比較的に進行が緩徐なものとがあります。 一般に腫瘍が腎に限局していれば5年生存率は70~90%,腎周囲脂肪組織に浸潤するものでは60~70%,腎静脈・下大静脈内塞栓のあるものまたは所属リンパ節転移のあるものでは30~40%,遠隔転移のあるものでは10~30%と報告されています。

6.腹腔鏡下腎摘除術に特有な合併症

  • 皮下気腫

    皮下に炭酸ガスが漏れ出す状況です。肥満の方や高齢の方で、手術が長時間になればなるほど発生率は上がりますが、通常は軽度で自然に消失します。

  • 高炭酸ガス血症

    血液内に炭酸ガスが溶け込んで、血液の酸性度が増す状態です。手術中に呼吸を調節したり、薬を使って治療します。

  • ポートサイトヘルニア

    術後、カメラや機械を入れた穴に腸や脂肪組織が入り込むことがあります。腸閉塞などの原因になるようであれば穴の部分を切開して縫い直す必要があります。

  • 空気塞栓

    血管内に空気の泡が入り込んでしまう状態です。肺梗塞よりもさらに稀で、特別な状況以外は起こりえませんが起こった場合は非常に危険な合併症です。