腹腔鏡下手術の一般的な合併症としては、出血や臓器損傷ならびに止血,損傷修復のための開腹処置があげられます。これらを予防するためには十分な経験を積んだ医師が細心の注意を払って本手術を行うことが必要です。
当院では、泌尿器内視鏡学会認定医および院内腹腔鏡手術認定を受けた術 者が手術を担当します。安全には十分注意して手術を行っております。
予想される主な合併症は下記の通りです。合併症の細かいことはお気軽に担当主治医にご相談ください。
予想される主な合併症
●発熱・感染症
感染症予防の目的で術前後に抗生剤の点滴投与を行います。しかし、術後創感染、腹腔内感染、尿路感染などが起きる場合があります。この際は、抗生剤の投与や入院期間の延長が必要となる場合があります。特に尿膜管膿瘍摘出の場合は、既に尿膜管内に感染があるため、創の感染を起こすリスクが少し高くなります。創感染を発症した場合は、創洗浄、再縫合などの処置が必要となることがあります。
●出血
術中あるいは術後に多少の出血を起こす場合があります。もし、術後に持続的な出血を認めた場合には血管カテーテル操作による止血処置や再手術を行う場合があります。また、出血量が一定の程度を超えた場合には、術中、術後に輸血を行う場合があります。
●肺静脈血栓症
術中または術後の臥床により、下肢の静脈に血栓(血のかたまり)ができ、それがはがれて移動し肺の血管が詰まることがあります。(肺静脈血栓症)当院では、手術肺静脈血栓症ガイドラインに基づき、その予防措置をおこなっております。予防のため、術中~術後に弾性ストッキングを着用していただき、できるだけ早期の離床を促しております。
ただし、離床の判断は医師が行っておりますので患者さん自身の判断では行わないでください。(麻酔薬等の影響により、ふらつき、転倒する場合があるためです。)また、術後に血栓予防の注射を行っております。万が一、肺静脈血栓症が発症した場合は専門の科と対応いたします。
●周辺臓器の損傷(腸管・膀胱・血管など)
手術中の剥離操作により周辺の臓器・組織に損傷を起こす場合があります。通常の操作ではまれですが、炎症に伴い腸管と尿膜管及び腹壁との癒着があった場合はそのリスクがあります。腹腔鏡下での修復が困難なときは、開腹手術に移行する可能性があります。また、必要に応じて各専門の外科の医師に修復をお願いする場合があります。また、術中合併症が生じた場合、腹腔鏡下手術中止し、開腹手術に移行する場合があります。これまでの61例では開腹手術に術中変更した症例はありません。
●膀胱からの尿流出、縫合不全
尿膜管は膀胱までつながっており、症例によっては膀胱を一部開放したのちに尿膜管を摘出します。この場合、開放された膀胱は縫合閉鎖、術後尿道カテーテルを約1週間留置します。
ごくまれですが術後に縫合部位より尿が漏れることがあります。この場合は尿道カテーテルをさらに3-7日程度留置します。ほとんどは前述のような保存的治療にて治癒しますが、改善を認めない場合は再手術を行うことがあります。
●術後イレウス(腸閉塞)
手術あるいは麻酔の影響で一時的に腸の動きが悪くなることがあります。この場合は食事を一時中止して経過を診ますが、改善を認めない場合には鼻から胃や腸に細い管を入れる処置を行うことがあります。多くの場合は保存的に改善します。
腹腔鏡手術に特有な合併症
●皮下気腫
腹腔鏡下手術は、腹腔内に炭酸ガス(CO2)を注入しスペースを確保して行います。そのため、炭酸ガスが皮下に漏れて術後に皮膚がプチプチしたような状態に感じることがあります。これを皮下気腫と呼びますが体への直接的な悪影響はありませんし、通常は自然に軽快します。
●肩への放散痛
術後、2~3日目に肩へ抜けるような痛みを感じることがあります。腹腔内に残留した炭酸ガスの刺激によるもので、自然に軽快します。
●高炭酸ガス血症
血液内に炭酸ガスが溶け込んで、血液の炭酸ガス濃度が増す状態です。術中の呼吸管理や薬の使用により改善しますが、改善が不十分な場合は、開腹手術に変更することがあります。
●ポートサイトヘルニア
術後、カメラや機械を入れていた創に腸が入り込み腸閉塞などの原因となることがあります。保存的に改善がない場合には創の部分を切開して再手術を行うことがあります。
●空気塞栓
血管内に炭酸ガスが入り込み塞栓症状を起こすものです。通常は少量のガスでは起こりません。術中のガスの圧などに注意して手術を行います。