膀胱がん

泌尿器科疾患について

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膀胱がん

1.膀胱がんとは

膀胱がんとは

膀胱は、おへその下、下腹部に位置し、腎臓で作られた尿をためる臓器です(図1)。膀胱の内側にある、尿路上皮と呼ばれる粘膜から発生した悪性腫瘍のことを、膀胱がんといいます。年間、人口10万人あたり約17人が膀胱がんになり、50歳以上、男性の方に多く発生すると言われています。自覚症状としては、肉眼的血尿でみつかることが最も多いため、血尿を認めたさいは、必ず膀胱がんの鑑別が必要となります。膀胱がんの原因は未だにはっきりとはわかっていませんが、喫煙者の方に膀胱がんが発生しやすいことは分かっています。

膀胱がんの進行具合を病期(ステージ)で分類し、治療方法を決定します。具体的には、膀胱鏡の所見、CT、MRIなどの画像所見により、T(膀胱がんの深さ)、N(リンパ節転移の有無)、M(肺、肝臓、骨などの遠隔転移の有無)の三つの要素を判断し、病期を決定します。 Tステージである膀胱がんの深達度(病巣の深さ)は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(別項参照)の病理結果により、CIS、Ta、T1、T2、T3、T4と分類されます(図2)。そして、がんが粘膜から粘膜下層にとどまっているCIS、Ta、T1を「表在性がん」、筋層に及んでいるT2以上を「浸潤性がん」に大きく二分し、治療法が検討されます(図3)。

膀胱がんの深達度
図2:膀胱がんの深達度
(表在性がんと浸潤性がん)
膀胱がんの治療方針

図3:膀胱がんの治療方針

2.手術療法

●経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)

膀胱鏡検査などにより膀胱がんが疑われた場合は、組織診断と治療をかねて、内視鏡的切除術である、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)(図4)を行います。そして、切除組織の顕微鏡検査でがんの悪性度、深達度などを正確に評価します(病理組織検査)。経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)は、下半身麻酔でおこない、尿道から手術用内視鏡を挿入し、病巣部を電気メスで切除します。
同時に、病巣部以外の膀胱粘膜を数カ所から採取し、がん細胞の有無を顕微鏡で検査します(粘膜生検)。経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)は、開腹手術に比べ簡便で身体的負担(侵襲)が少ないことが特長です。しかし、内視鏡手術の特性上、膀胱壁の外側まで切除することはできません。またリンパ節の摘出も不可能です。したがって、CT・MRI検査や膀胱鏡検査などからリンパ節転移がなく、病巣の深さも筋層表面までと推測される場合が適応とされます。

入院期間は、病状・術後経過ならびに術後補助療法の有無により違いがあります。術後経過が順調で補助療法も不要な場合は、約1週間の入院治療が見込まれます。 術後病理診断の結果、がんが粘膜~粘膜下層にとどまっていて、完全に取り切れていれば治療は完了し、外来で経過を観察します。また、T1という深さで悪性度が強い場合は、再度、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を行う場合があります。なお、表在性がんのなかでも上皮内がんと言われるタイプは、腫瘍の範囲が不明なことが多く、再発率も高いため、膀胱内BCG注入療法を行います。

経尿道的膀胱腫瘍切除術

図4:経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)

●膀胱全摘除術
膀胱全摘術

一般に浸潤性がんの場合に行われますが、表在性であっても、悪性度が非常に高いがん、再発を繰り返すうちに悪性度や深達度が上昇するタイプ、BCG膀胱内注入治療に反応しない上皮内がんの場合などにも適用されることがあります。 病理組織検査の結果、浸潤性がんと判定された場合は、内視鏡的切除術では切除しきれず、がん細胞を取り残していることになります。肺や肝臓に転移がない場合は、膀胱を摘出する、膀胱全摘術が標準的治療法となります。その場合、膀胱周辺のリンパ組織も切除します。また、尿を体外に出す尿路変向術(次項参照)も併せて行われます。

腹腔鏡下膀胱全摘術(イメージ図)

なお、当院では、腹腔鏡下による膀胱全摘術を積極的に行っており、これまでに約70例の経験があります。腹腔鏡下手術の最大のメリットは、出血量が少なく、患者さんへの負担が少ないということです。2012年4月以降は、保険適用となり、今後さらに腹腔鏡下の膀胱全摘術が広く行われることになると思われます。

●尿路変更

尿失禁型スマートあり・尿失禁型スマートなし

膀胱は尿をためる臓器なので、膀胱を摘出すれ際には、尿路変更と言い、新たに尿を体外に出す処置が必要になります。膀胱全摘術後の患者さんが直面する最大の問題は、どのような形で排尿をするかということです。 一般的には、尿管皮膚瘻、回腸導管、代用(新)膀胱造設というおおきく三つの尿路変更法があります。当院では、基本的に代用(新)膀胱造設を第一選択としております。それぞれメリット、デメリットがあり、がんの状態や年齢、全身状態、腎機能障害などの依存症、手術歴などを考慮し、主治医とよく相談の上、決定します。

図7:尿路変更の種類

尿路変更の種類

3.抗がん剤療法

転移がある場合は、抗がん剤による化学療法が治療の主体となります。化学療法としては、GC療法(ゲムシタビンとシスプラチン)、MVAC療法(シスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン)などの抗がん剤を組み合わせて静脈から点滴注射をする、多剤併用化学療法が一般的です。

4.再発と再発予防法

がんが粘膜下層までにとどまっている表在性がんの場合は、内視鏡的切除などの膀胱を温存する治療法で治癒することが期待できます。しかし、手術だけでは、再発することが多いため(2年以内に約50%)、再発を予防する目的で抗がん剤やBCGによる膀胱内注入治療を手術後に行います。これらの注入治療は外来で週1回、合計2~8回行いますが、それでも再発率は20~30%とされています。したがって、検尿・尿細胞診・膀胱鏡検査などで定期的に観察し、再発を早期に発見することが非常に重要です。通常これらの検査は、最初の2年間は3ヶ月毎、3年目は6ヶ月毎、以降1年毎に行います。

BCG膀胱内注入治療
尿道から膀胱にカテーテル(細い管)を挿入して、結核予防ワクチンであるBCGを膀胱内に注入する治療法です。有効性は非常に高く、特に上皮内がんでは現在第一選択とされています。副作用として発熱、血尿、頻尿、排尿痛などが治療当日~数日間おこります。

5.さいごに

膀胱がんは、その病状や病期によって、治療法や対応がおおきく変わってきます。正確な診断と最適な治療を提供することはもちろん、それぞれの患者さんに最も適した方法を追求することをモットーに診療にあたっております。膀胱がんに関して、ご不安、ご不明なことがありましたら、遠慮なく当診療科にご相談ください。