早期の前立腺がんであれば、年齢や身体的な条件はあるものの、多くの患者さんは以下のような様々な治療法を選ぶことが可能となります。しかし、前立腺がんが進行すると骨盤のリンパ節や全身の骨に転移し、この場合には全身的な効果が期待できるホルモン療法が中心となり治療法が限られてきます。
1) 手術療法(根治的前立腺全摘除術)
前立腺と精嚢を摘出し、尿道と膀胱をつなぐ方法です。当院では主にロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP: Robot Assisted Radical Prostatectomy)を行っております(詳しくはロボット手術の項をご参照ください)。
一般的な副作用として、尿失禁やインポテンスなどが挙げられますが、手技の進歩により副作用は以前より発生が少なくなっています。
また、摘出された前立腺がんを検査(病理組織検査)に提出し、前立腺がんの広がりなどを詳しく調べなおします。そして、その結果によって追加治療が必要かどうかの判断を行います。
2) 外部放射線治療
この治療は外部照射装置(リニアック)を用いて体外から毎日少しずつ放射線を前立腺に投与します。外部照射だけによる治療の全期間は7~8週間を要します。通院治療が可能で、副作用は下痢や便秘などの消化器症状が中心です。
3) 組織内照射治療(密封小線源挿入治療)
これは前立腺組織内に密封小線源(金属カプセルに入った低線量の放射性物質)を永久に留置して前立腺がんを治療する方法です。この治療は前立腺組織内に線源を留置するため、前立腺内でも放射線の濃度に濃淡がつけられるため、直腸など周囲組織への放射線も限定されており、治療も1-2日の短期入院で済むなどの利点があげられます。
治療に使われる小線源(シード)は0.8×4.5ミリのチタン製の金属カプセル内にヨウ素125という放射性物質が封入されており, 半減期は約60日と比較的長いものの, そのエネルギーは大変小さく体外への影響も極めて小さいなどの特徴を持っています。一般的にお一人の治療に対し必要とされる線源数は70~100個程度です. 総線量は140~150Gyと高線量ですが, 外部照射の70~80Gyに相当し, これらの線量が半年程かけてゆっくり前立腺に投与されることになります。
実際の治療はまず刺入当日に浣腸を施行し, 直腸内をきれいにした後腰椎麻酔を行います. その後截石位を取り, 経直腸超音波を肛門より挿入した後、会陰部(陰嚢と肛門の間)から長い針を前立腺まで刺入し,コンピューターを用いて計画した適切な位置に線源を留置していきます. 治療時間は1~2時間ほどです。
この治療の副作用は頻尿と尿意切迫感が中心です。また、手術療法やホルモン併用外照射療法と比べると、PSAの低下は比較的緩やかであり、3-5年かけてPSA値<0.1ng/mlが目標値として定められております。
密封小線源治療をムービーで詳しく解説
4) ホルモン療法(内分泌治療)
ホルモン療法は、前立腺がんの増殖に必要な男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌や働きを抑えることで、がんの進行を抑える治療法です。主に注射薬(LH-RHアゴニストやアンタゴニスト)、内服薬(抗アンドロゲン薬)、または精巣摘除術などが用いられます。
この治療は一般的に進行がんや転移のある場合、または放射線治療と併用して行われることが多いです。近年はアンドロゲン受容体阻害薬(ARPI)が複数種類使えるようになり、またARPIと抗がん剤との併用も進められており、多様な選択肢があります。ホルモン療法はがんを縮小・抑制する効果がありますが、長期的には効かなくなること(去勢抵抗性)があるため、定期的な経過観察と治療方針の見直しが重要です。
ホルモン療法の主な副作用には、ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、性欲減退、勃起障害、骨密度の低下(骨粗しょう症)、筋肉や関節の痛み、体重増加、気分の落ち込みや不眠などの精神症状があります9。また、長期間の治療で脂質異常や貧血、乳房の腫れや痛み、女性化乳房がみられることもあります9。これらの副作用は治療の種類や期間、個人差によって現れ方が異なりますので、症状がつらい場合は医師に相談し、適切な対策をとることが大切です。
5) 経過観察
PSA監視療法とは、前立腺がんと診断されても、すぐには積極的な治療を行わず、定期的な検査で経過を観察する治療法です。この方法は主に、PSA値が低く(10ng/ml未満)、悪性度の低い(グリソンスコア6以下)、小さながんで転移がない「低リスク前立腺がん」の患者さんに適しています。PSA監視療法では、3ヶ月ごとのPSA測定、前立腺MRI検査、そして1〜2年ごとの前立腺生検によって、がんの進行がないか慎重に観察します。
PSA監視療法の大きな利点は、手術や放射線治療による副作用(尿漏れや性機能障害など)を回避または遅らせることができる点です。PSA監視療法は「何もしない」治療法ではなく、定期的かつ計画的な検査が不可欠です。検査でがんの進行が疑われた場合(PSA値の急な上昇や生検でのがんの悪性度上昇など)には、手術や放射線治療などの根治的治療を検討する必要があります。この治療法を選ぶ際は、医師と十分に相談し、継続的な管理をしっかりと受けられる体制が重要です。
前立腺がんのリスク分類(D’Amico分類)
|
PSA(ng/ml) |
Gleason score |
臨床病期 |
低リスク群 |
10未満 |
6以下 |
T2a以下 |
中間リスク群 |
10以上、20未満 |
7 |
T2b |
高リスク群 |
20以上 |
8以上 |
T2c以上 |
6) 救済局所療法
ここまで、前立腺がんと診断されたあとの初期の治療について記載して参りましたが、残念ながら治療を受けても一定数の割合の患者さんにはがんの再発が見られます。再発は、PSA値(初期治療の種類によって再発の基準値は異なります)、CT・MRIなどの各種画像検査によって定義されます。
当院では、放射線治療後の前立腺局所再発(PSA上昇も多臓器への転移がなく、MRI画像上前立腺に限局した再発がみられるもの)に対する、救済局所療法(救済前立腺全摘除術・救済密封小線源療法・前立腺がん凍結治療を積極的に行っております。
これらの治療によって、ホルモン療法の使用を遅らせることができ、上記4)の項に示したホルモン長期使用における副作用を回避できることが期待されます。