前立腺がん

泌尿器科疾患について

疾患名をクリックすると詳しい内容がご確認いただけます。

前立腺がん

1.前立腺がんとは

前立腺説明図

前立腺は男性のみにあり、栗のような大きさ・形をしている臓器で、精液の一部を分泌しています。膀胱の下にあり尿道を取り囲んでいて、肛門から指を挿入し診察(直腸診)することができます。この前立腺に発生する悪性腫瘍(がん)が前立腺がんです。 最近では、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)が普及し、早期の前立腺がんが発見され、手術や放射線により治癒できる患者さんが増えつつあります。

2.診断

PSAの上昇の原因としては、
① 前立腺がん
② 前立腺肥大症
③ 前立腺炎(急性・慢性)など

が挙げられ、PSAが上昇しても必ずしもがんに限る訳ではありません。がんを鑑別する意味で精密検査が必要です。

精密検査として、
① PSA再検査:急性炎症などの場合では、再検査で低下していることもよくあります。
高値が続く場合は、更なる精密検査が必要です。
場合により、PSA F/T比, phi(prostate health index, プロステートヘルスインデックス)など、PSA値をもう一段階深く解析するような検査も加えます。
② 尿検査:尿中に白血球が出ている場合などは炎症によることがあります。
③ エコー検査:がんの場合、エコーで黒くみえる(低エコー像)場合があります。
④ MRI検査:近年、MRI特に造影でのMRI検査による診断が重要です。
PIRADSといった前立腺癌を疑うかどうかのスコアリングがあります。1から5まで5段階あり、5段階あり、3で約30-50%、4になると60-70%、5になると80%以上の確率で生検を行うとがんがみつかります。(Prostate Cancer Prostatic Dis. 2019 ;22(1):39-48. Eur Urol. 2020 ;77(1):78-94.)

が挙げられます。

上記の検査では前立腺がんの診断には至りませんため、上記の検査で前立腺がんが疑われる所見のある方については、
前立腺組織を採取する検査(前立腺生検)が必要となります(当院では最短1泊2日の検査入院をして頂いております)。
そして、採取された組織にがんが存在するかどうかを診断(病理組織診断)することとなります。

前立腺生検の図

採取した組織検査では、がんの有無だけではなく、がんの悪性度(グリソンスコア)を評価します。

グリソンスコア:前立腺がんの悪性度を2から10の数値で表す。”6″以下ではおとなしい性質のがん、”7″は中くらい、”8-10″は悪性度が高いがんと考えます。この、グリソンスコアは治療法を決定するうえで重要となります。

前立腺がんが早期に発見された場合には、がんが前立腺の内部にとどまっていますが、進行した前立腺がんでは、前立腺の周囲臓器(精嚢や膀胱)への浸潤や、他の臓器(骨やリンパ節など)へ転移を認める場合があります。そのため、CTやMRI、骨シンチグラムといった検査を行い、浸潤(精嚢など)や転移(骨・リンパ節など)の有無を評価いたします。

 

 

  • 診断の流れ→スクリーニング検査
  • 確定診断
  • 病期診断

PSA検査で、異常を指摘された場合、直腸診や経直腸超音波検査などを行います。この検査では、前立腺がんの広がりを評価致します。しかし、これらの検査(PSA・直腸診・超音波検査)では前立腺がんの診断には至らないため、前立腺組織を採取する検査(前立腺生検)が必要となります。そして、採取された組織にがんが存在するかどうかを診断(病理組織診断)することとなります。

PSA 前立腺がんの診断・治療に使用される腫瘍マーカー。血液を採取して行う。
直腸診 肛門より指を挿入し、前立腺の形・大きさ・硬さなどを評価する。
経直腸超音波検査
(エコー)
肛門より専用の器械(超音波深子)を挿入し行う検査。
前立腺内部や周囲の情報を得ることができる。
前立腺生検 前立腺より組織を採取する検査。当科では10-22か所採取しています。
  • 直腸診の図
  • 前立腺生検の図

採取した組織検査では、がんの有無だけではなく、がんの悪性度(グリソンスコア)を評価します。

グリソンスコア:前立腺がんの悪性度を2から10の数値で表す。”6″以下ではおとなしい性質のがん、”7″は中くらい、”8-10″は悪性度が高いがんと考えます。この、グリソンスコアは治療法を決定するうえで重要となります。

前立腺がんが早期に発見された場合には、がんが前立腺の内部にとどまっていますが、進行した前立腺がんでは、前立腺の周囲臓器(精嚢や膀胱)への浸潤や、他の臓器(骨やリンパ節など)へ転移を認める場合があります。そのため、CTやMRI、骨シンチグラムといった検査を行い、浸潤(精嚢など)や転移(骨・リンパ節など)の有無を評価いたします。

  • 診断の流れ→スクリーニング検査
  • 確定診断
  • 病期診断

3.治療

早期の前立腺がんであれば、年齢や身体的な条件はあるものの、多くの患者さんは以下のような様々な治療法を選ぶことが可能となります。しかし、前立腺がんが進行すると骨盤のリンパ節や全身の骨に転移し、この場合には全身的な効果が期待できるホルモン療法が中心となり治療法が限られてきます。

  • 早期癌の図
  • 進行癌の図
  • 転移がん
 
1) 手術療法(根治的前立腺全摘除術)

前立腺と精嚢を摘出し、尿道と膀胱をつなぐ方法です。当院では主にロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP: Robot Assisted Radical Prostatectomy)を行っております(詳しくはロボット手術の項をご参照ください)。
一般的な副作用として、尿失禁やインポテンスなどが挙げられますが、手技の進歩により副作用は以前より発生が少なくなっています。
また、摘出された前立腺がんを検査(病理組織検査)に提出し、前立腺がんの広がりなどを詳しく調べなおします。そして、その結果によって追加治療が必要かどうかの判断を行います。

2) 外部放射線治療

この治療は外部照射装置(リニアック)を用いて体外から毎日少しずつ放射線を前立腺に投与します。外部照射だけによる治療の全期間は7~8週間を要します。通院治療が可能で、副作用は下痢や便秘などの消化器症状が中心です。

3) 組織内照射治療(密封小線源挿入治療)

これは前立腺組織内に密封小線源(金属カプセルに入った低線量の放射性物質)を永久に留置して前立腺がんを治療する方法です。この治療は前立腺組織内に線源を留置するため、前立腺内でも放射線の濃度に濃淡がつけられるため、直腸など周囲組織への放射線も限定されており、治療も1-2日の短期入院で済むなどの利点があげられます。
治療に使われる小線源(シード)は0.8×4.5ミリのチタン製の金属カプセル内にヨウ素125という放射性物質が封入されており, 半減期は約60日と比較的長いものの, そのエネルギーは大変小さく体外への影響も極めて小さいなどの特徴を持っています。一般的にお一人の治療に対し必要とされる線源数は70~100個程度です. 総線量は140~150Gyと高線量ですが, 外部照射の70~80Gyに相当し, これらの線量が半年程かけてゆっくり前立腺に投与されることになります。
実際の治療はまず刺入当日に浣腸を施行し, 直腸内をきれいにした後腰椎麻酔を行います. その後截石位を取り, 経直腸超音波を肛門より挿入した後、会陰部(陰嚢と肛門の間)から長い針を前立腺まで刺入し,コンピューターを用いて計画した適切な位置に線源を留置していきます. 治療時間は1~2時間ほどです。
この治療の副作用は頻尿と尿意切迫感が中心です。また、手術療法やホルモン併用外照射療法と比べると、PSAの低下は比較的緩やかであり、3-5年かけてPSA値<0.1ng/mlが目標値として定められております。

密封小線源治療をムービーで詳しく解説

4) ホルモン療法(内分泌治療)

ホルモン療法は、前立腺がんの増殖に必要な男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌や働きを抑えることで、がんの進行を抑える治療法です。主に注射薬(LH-RHアゴニストやアンタゴニスト)、内服薬(抗アンドロゲン薬)、または精巣摘除術などが用いられます。
この治療は一般的に進行がんや転移のある場合、または放射線治療と併用して行われることが多いです。近年はアンドロゲン受容体阻害薬(ARPI)が複数種類使えるようになり、またARPIと抗がん剤との併用も進められており、多様な選択肢があります。ホルモン療法はがんを縮小・抑制する効果がありますが、長期的には効かなくなること(去勢抵抗性)があるため、定期的な経過観察と治療方針の見直しが重要です。
ホルモン療法の主な副作用には、ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、性欲減退、勃起障害、骨密度の低下(骨粗しょう症)、筋肉や関節の痛み、体重増加、気分の落ち込みや不眠などの精神症状があります9。また、長期間の治療で脂質異常や貧血、乳房の腫れや痛み、女性化乳房がみられることもあります9。これらの副作用は治療の種類や期間、個人差によって現れ方が異なりますので、症状がつらい場合は医師に相談し、適切な対策をとることが大切です。

5) 経過観察

PSA監視療法とは、前立腺がんと診断されても、すぐには積極的な治療を行わず、定期的な検査で経過を観察する治療法です。この方法は主に、PSA値が低く(10ng/ml未満)、悪性度の低い(グリソンスコア6以下)、小さながんで転移がない「低リスク前立腺がん」の患者さんに適しています。PSA監視療法では、3ヶ月ごとのPSA測定、前立腺MRI検査、そして1〜2年ごとの前立腺生検によって、がんの進行がないか慎重に観察します。
PSA監視療法の大きな利点は、手術や放射線治療による副作用(尿漏れや性機能障害など)を回避または遅らせることができる点です。PSA監視療法は「何もしない」治療法ではなく、定期的かつ計画的な検査が不可欠です。検査でがんの進行が疑われた場合(PSA値の急な上昇や生検でのがんの悪性度上昇など)には、手術や放射線治療などの根治的治療を検討する必要があります。この治療法を選ぶ際は、医師と十分に相談し、継続的な管理をしっかりと受けられる体制が重要です。

前立腺がんのリスク分類(D’Amico分類)
  PSA(ng/ml) Gleason score 臨床病期
低リスク群 10未満 6以下 T2a以下
中間リスク群 10以上、20未満 7 T2b
高リスク群 20以上 8以上 T2c以上
6) 救済局所療法

ここまで、前立腺がんと診断されたあとの初期の治療について記載して参りましたが、残念ながら治療を受けても一定数の割合の患者さんにはがんの再発が見られます。再発は、PSA値(初期治療の種類によって再発の基準値は異なります)、CT・MRIなどの各種画像検査によって定義されます。
当院では、放射線治療後の前立腺局所再発(PSA上昇も多臓器への転移がなく、MRI画像上前立腺に限局した再発がみられるもの)に対する、救済局所療法(救済前立腺全摘除術・救済密封小線源療法・前立腺がん凍結治療を積極的に行っております。
これらの治療によって、ホルモン療法の使用を遅らせることができ、上記4)の項に示したホルモン長期使用における副作用を回避できることが期待されます。

4.去勢抵抗性前立腺がん

ホルモン療法により、男性ホルモンの分泌が抑えられているにもかかわらずPSAが上昇したり、他臓器に転移したりする前立腺がんのことを去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)と呼びます。CRPCは、専門的には「外科的去勢、薬物による去勢状態で、かつ血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず病勢の増悪、PSAの上昇をみた場合、抗アンドロゲン剤の投与の有無にかかわらず、CRPCとする」としています。
 治療としては内服薬の変更や、転移部位に対する放射線治療、化学療法などを行っていきます。近年この領域における治療の進歩はめまぐるしく、新しく使用できる薬も増えてきています。当院ではCRPCに対する新規薬剤や、化学療法の経験も豊富です。他院では治療が難しいといわれた方も当院では積極的に治療を行っています。ぜひご相談ください。